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【巻頭言】 馬毛島の軍事要塞化をとめよう! 中北龍太郎


「嬉しきしき日辛かりし日もそこに在り馬毛島はわが同胞の島」

鹿児島県西之表市長八板俊輔氏作の短歌です。この馬毛島(まげしま)に日米一体の巨大軍事基地が作られようとしています。ストップ!馬毛島の軍事要塞化。本土からもこの訴えを広げましょう。

■日米の軍事戦略

馬毛島の軍事要塞化は、米国が中国と世界の覇権を争うための軍事戦略の一環です。米国は新冷戦を煽り立て、「海洋プレッシャー戦略」を打ち立てています。この戦略は、海洋進出を進める中国が線引きした第1列島線(九州から沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島に至るライン)沿いに、地上発射の対艦、対空ミサイルを大量に配置し、これを支援する海・空部隊を配備するというものです。このインサイド部隊は、第1列島線の諸島を、センサー、ミサイル、電子戦システム能力で固め、攻撃基地へと変えていくことを目的としています。インサイド部隊が守っている間に強大な軍事力を持ったアウトサイド部隊が中国大陸まで視野に入れた攻撃を展開するといったシナリオです。インサイド部隊は、自衛隊・米海兵隊を中心とし、アウトサイド部隊は米海軍・空軍中心です。こうした戦略を遂行することにより、インド太平洋の制海権を確保し、中国軍を第1列島線に封じ込めることを狙っています。



想定されている戦闘は、①中国軍が上陸する前に海上部隊を撃破、②陸上配備型のミサイル防衛システムにより、長距離爆撃機の攻撃を阻止、③情報ネットワークを遮断するため、陸上攻撃、対艦・対空兵器を使用、④潜水艦発射の巡航ミサイル、アウトサイド部隊の長距離ミサイルによる攻撃、接近して行う地上攻撃です。こうした島嶼戦争を戦うための態勢づくりが着々と進められています。

こうした米戦略に呼応して、自衛隊の南西諸島への対艦・対空ミサイル配備が進んでいるのです。馬毛島の軍事要塞化は、九州の基地群(長崎県佐世保の水陸機動団、福岡県築城の第8航空団、宮崎県新田原の第5航空団)とむすんで、海空攻撃力の展開拠点となります。また、軍事化された馬毛島は、南西諸島防衛ライン(与那国島の陸上自衛隊沿岸監視隊、石垣島・宮古島・奄美大島の陸自の対艦・対空ミサイル部隊、警備部隊、沖縄での自衛隊大増強)の後方支援基地ともなります。

■馬毛島の軍事要塞化

馬毛島は、南北4.5キロ、東西2.7キロで、種子島から10キロほど離れており、無人島では日本第2の面積です。1959年には500人強の住民が住んでいましたが、70年代半ばに石油備蓄基地などの計画が持ち上がり、島民は土地を手放して島を離れ80年に無人島になりました。開発計画は頓挫しましたが、開発業者が土地を買いあさり島の99%を所有するようになりました。20121年日米間で、島を米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練施設とするとの合意が成立しましたが、地権者との買収交渉が長引き、19年に国がようやく160億円で買収しました。そして馬毛島の軍事要塞化にむけて、防衛省は昨年10月から住民説明会を開き、12月から海上ボウリング調査、今年2月から環境影響評価(アセスメント)を始めています。

建設されようとしているのは自衛隊基地であり、その根幹は長さ2450mと1830mの滑走路で、そこで空母艦載機の離着陸訓練(陸上滑走路を空母の飛行甲板に見立ててタッチアンドゴーを繰り返す飛行訓練のこと)をすることになっています。同訓練は、73年に米空母が神奈川県横須賀港を母港にして以来であり、三沢・岩国基地で始まり、82年から厚木基地で実施されるようになり、91年から硫黄島に移転しました。艦載機部隊は2018年に厚木基地から岩国基地に移転しています。硫黄島では本土から1400キロも離れているのに対し、岩国から馬毛島までは400キロの距離にあり、米軍が熱心に近距離の訓練場を求めてきたことが島に基地を建設する要因になりました。それとともに、自衛隊の南西諸島シフトが基地建設の動因となっています。

自衛隊馬毛島基地は島ぐるみの基地であり、島いっぱいに滑走路、桟橋・係留施設、上陸訓練場、弾薬庫などを建設し全島の軍事要塞化をめざしている点で、軍事化が進む南西諸島の中でも際立っています。自衛隊基地を米軍が利用する日米共同運用は、2018年公表の第4次アーミテージ報告でも提言されているところであり、最初の例になる可能性が高い。自衛隊は、航空自衛隊が空母に改造中のいずも型護衛艦の艦載機の離着陸訓練、空中給油機の訓練を予定しており、米軍空母艦載機の離着陸訓練と合わせて年間150日にも及ぶ訓練が予想され、種子島住民に騒音被害が及ぶのは避けられません。

海上自衛隊は、離島奪還に向けた強襲上陸作戦の演習を予定しており、演習がまき散らす騒音で、恵まれた漁場の漁業に障害を与えます。陸上自衛隊は投下・降下訓練を想定しています。空・海・陸自衛隊は、米軍との相互運用性、一体化を深めるために様々な日米共同演習を馬毛島で行うことを予定しています。このように、島は自衛隊3隊の統合基地であるとともに、日米共同の基地と化すことになります。

こうした軍事要塞化により、馬毛島のみに固有分布するとされるマゲシカの絶滅など自然破壊が進むことが心配されます。



■日米共同の敵基地攻撃

米ミサイル戦略の基本は、宇宙、陸、海、空などのあらゆる領域で、いつでも先制打撃と迎撃ができる即応態勢を整え実行することにあります。そのことは、「米国が地域武力紛争に突入しなければならない場合、発射前に敵対ミサイルを攻撃することは進行中の戦闘作戦の一部である」(2019年発表の米国防総省「ミサイル防衛見直し」)と明記されているところです。また、セルヴァ米統合参謀本部副議長(当時)は「矢を破壊する」よりも「射手を殺す」ことを優先し、「敵のネットワークを断ち、指揮・命令体制の内部やミサイル防御機能とシステムの内部に入り、発射台をターゲットにすることだ」と述べ、敵基地攻撃力の強化を強調しています。

日本が進めようとしている「敵基地攻撃」は、米戦略を基本としてそれをなぞるものです。米国3は発射前の敵ミサイルを攻撃するためには、「同盟国とのミサイル防衛システムの相互運用性を強化する」「ミサイル防衛活動に関する同盟国との協力関係の強化、共通の防衛責任の分担」(「ミサイル防衛見直し」)を訴えています。このように同盟国=日本との協力・分担関係を構築するとともに、日本との共同・統合を米国主導のミサイル防衛態勢を形成するのに必須と指摘しています。2018年の第4次アーミテージ報告は、日米合同機動部隊や日本の統合作戦司令部の創設などとともに、北朝鮮のミサイルを破壊する能力=敵基地攻撃能力の矢を持つべきだ、日米で2本の矢を持つことになると提言しています。さらに、2020年の第5次アーミテージ報告では、防衛費のGNP1%を問題視し、第1列島線の戦略的重要性を強調し、米日豪印の軍事協力により中国に対抗することの重要性を力説しています。

米海軍開発の「革命的な戦闘システム」とされる「共同交戦能力」は、戦域に展開する米軍、同盟国軍部隊のすべての探知情報と射撃管制を統合化し部隊間で共有化し、戦闘部隊群を一つの部隊として一体的に運用することをめざしています。こうしたシステムのもとで、日本の敵基地攻撃能力の保有は、米国を支え強化するために欠かせません。これが現在の日米同盟の本質です。また、日本が敵基地攻撃をする場合、敵国の発射台にミサイルを撃ち込むための情報は米軍に依存しており、日本の攻撃の引き金は米国が握ることになります。しかも、米中が戦端をひらけば、自衛隊は米軍の指揮下で米国の戦争の一部として行動することになり、在日米軍基地にミサイルが飛んでくることを覚悟しなければなりません。

正式の敵基地攻撃能力の保有の政策決定がないまま、その能力保有が既成事実として着々と進んでいます。いずも型護衛艦の空母化、F35Bステレス戦闘機の空母での運用、長距離スタンドオフミサイル(敵の射程圏外からの攻撃で、射程千キロが目標)の導入、島嶼防衛用高速滑空弾(対空火器による迎撃が困難な高高度の超音速滑空弾)や極超音速誘導弾(マッハ5を超える速度で不規則に4機動するミサイル)の開発などです。

こうした敵基地攻撃能力を有するミサイル配備計画がすさまじい勢いで南西諸島で進行しているのです。馬毛島の軍事要塞化は、2018年策定の「防衛計画の大綱」において基本的指針、長期戦略とされている多次元統合防衛作戦(陸・海・空、宇宙・サイバー・電磁波などすべての領域の能力を融合させる領域横断作戦)の要として位置づけられているのです。



■馬毛島の軍事要塞化をとめよう

南西諸島に自衛隊のミサイル部隊、米海兵隊が配備されれば、島の社会は大きく変質し、戦闘が起きれば住民は犠牲になり、社会インフラや自然は壊滅的打撃を被ります。馬毛島の基地建設に反対する立場を明確にしている八板市長は、1月31日投開票された市長選で再選を果たし、粘り強く反対の諸活動を進めています。

敵基地攻撃能力保有―南西諸島の軍事化は、日本の専守防衛原則を瓦解させ、先制攻撃に道を開きます。私たちにも深くかかわっています。

馬毛島の軍事要塞化を許すな!声をあげていきましょう。





関西共同行動ニュース No86