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「森問題」が問いかけるもの 【参議員議員】福島みずほ

森喜朗東京オリパラ競技大会組織委員長が、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。」と言った。絶大な権力を持つ会長がこのような発言をすれば、女性は発言が本当にしにくくなる。森会長の発言は、「女は黙っていろ」と言うことである。



森会長のこの発言に多くの女性たちが怒りで反応した。職場で、組合で、政党で、NGOで、PTAで、町内会で、様々のサークルやインターネットの場を含めいろんな場で、「女は黙っとれ」と陰に陽に圧力をかけられる。話をすると、遮られたり、冷笑されたり、「勉強してから言え」と言われたり、場の空気が読めないと言われたり、なんでそんなことを今更言うんだと言われたり、上から目線で教えてやると言われたり、上から目線で発言をつぶされたりする。マウンティングである。女性が発言することに対する違和感や差別がある。まさにミソジニー、女性嫌悪である。

女性たちはそのようなことを経験してきたので、これは私に関することだと多くの人が思ったのではないか。日本の至るところに、森会長のような考え方の人がいて、このことによってどれだけ多くの女性たちが潰されてきたのか。女性たちが動き、海外でも報道され、オリンピックのスポンサーたちが動いたことで、森会長は辞任をした。今まで女性差別発言をしてこのような形で辞任をする人はいなかったと思う。その意味ではやはり女性たちの力、とりわけ若い女性たちが署名を集め、その署名を持っていったことなども大きかった。日本のジェンダー平等ランキングで156ヶ国中120位、G7では最下位である。2006年から2020年までの間に、フランスは71位から15位になり、日本は79位から121位になった。日本は何もやってこなかったわけではないが、スピードが鈍く、法制度の取り組みが不十分なのである。

第1に、日本は、差別的な法制度が残っている。夫婦同性を強制している国は世界で日本だけであると政府は答弁をした。また、堕胎罪が存在し、リプロダクティブ・ヘルス・ライツ、性と生殖における自己決定権の保障も極めて不十分である。第2に、性差別を撤廃するための法制度が極めて弱い。ジェンダーギャップ指数世界1位は長年アイスランドである。そのアイスランドは、賃金差別をなくすために法律を作り、2022年までに女性に対する賃金差別をなくそうとしている。企業や公的機関にかかわらず、25名以上従業員がいる団体に対して男女ともに同一賃金を支払っているという証明書の提出を義務づけ、証明できない場合は、1日につき500ドルの罰金が発生する。取締役のクォータ制(割当制)についてもノルウェーは2003年に国営企業や複数州で活動する企業を対象に取締役は男女ともに4割以上を義務づけた。2005年には上場企業も対象となり、遵守できない場合は企業名の公表や企業の会社の解散などの制裁が課される。現在ノルウェーでは企業役員の4割が女性、オランダ、ドイツでは2009年に国営企業や従業員250人以上の企業を対象に2015年までに「取締役は男女ともに3割以上」が規定。日本は、企業における男女の賃金すら公表義務となっていない。

第3に、政治の意思決定の場における男女平等がなかなか進んでいない。

2018年、政治の意思決定の場における男女共同参画社会基本法が施行された。しかしこれは努力義務である。衆議院の女性比率は9.9%であり、参議院の女性比率は22.6%である。下院がある199ヶ国中166位である。全体では144位。自治体の議会で、女性議員がゼロ、あるいは1人しかいない議会は合わせて45%にもなる。なぜ女性議員の拡大が進まないのか。議員や候補者の一定数を女性に割り当てるクォーター制を採用しているのは、118ヶ国存在する。こうした法制度も重要な課題である。

第4に、監視チェックする機構が弱いことが挙げられる。カナダでは国会に男女平等を監視するセクションがあり、予算等のチェックを行っている。



第5に日本は、個人等の申立を認める女子差別撤廃条約の選択議定書を批准していない。そして、裁判所とは別に、人権侵害からの救済と人権保障を推進するための国内人権機関も設置されていない。

ところで、先日テレビ朝日の報道ステーションのウェブ上のCMが大問題となった。若い女性がインターネットで、画面を通して誰かに話しかけているという設定のCMである。「会社の先輩、産休明けで赤ちゃん連れてきたんだけれど、もうすっごくかわいくって。どっかの政治家が『ジェンダー平等』ってスローガンに掲げている点で、何それ、時代遅れって感じ。高い化粧水買っちゃったの。すごくいいやつ。それにしても消費税高くなったよね。国の借金減ってないよね」などと話した後、「(報ステの開始時間の)9時54分!ちょっとニュース見ていい?」と発言。その直後に、「こいつ報ステみてるな」という字幕が表示されて終わる。

先輩が産休明けで赤ちゃん連れてきて、今後仕事と育児の両立で苦労することも考えられる。だからこそジェンダー平等が必要なのである。この間、医学部受験における女性差別の問題、性暴力をめぐる運動、フラワーデモ、森喜朗会長の女性差別発言とそれに伴う辞職、そして、日本がジェンダーランキング121位であることなど、たくさんの課題がある日本で、ジェンダー平等は時代遅れと言うCMは大問題である。ジェンダー平等を古いものとして葬り去ろうとしているとしか考えられない。ジェンダー平等は時代遅れと言うことが、かわいい赤ちゃん、良い化粧水の間にサンドイッチとして挟まれている。ジェンダー平等は、子育てや美容に気を使う事と対極のものとして描かれているのではないか。ジェンダー平等に対する無理解と揶揄はひどいものである。テレビ朝日はCMを削除し、「ジェンダーの問題については世界的に見ても立ち遅れが指摘されているなか、議論を超えて実践していく時代にあるという考えを伝えようとしていたものでした」と説明をした。しかし、この説明も理解ができない。ジェンダー平等を政治の場でやっていくと言う事は、まさに実践だからである。

そして、最後に、新自由主義とジェンダー平等は両立をしないということを強調したい。新自由主義とは企業の自由が最大限に保障され、利益を追求できる社会を目指すものである。そこでは妊娠出産の可能性があり、育児や家事、介護をより多く担わされている女性は、そうでない男性よりも企業にとって望まれないからである。多くの女性が、低賃金で不安定な非正規雇用に追いやられているのが現実である。新自由主義は、女性を男性のように働かせようとする一方で、社会の基礎となる再生産の営みに関しては女性が担うという不平等に依存し、その責任の大半を女性に押し付けている。ジェンダー平等は、女性が男性のようになることではない。私たちが変えたいのは、女性が主人公となり得ないこの社会そのものである。男社会を補強するのではなく、男社会そのものを変え、社会の価値観や経済のあり方そのものを変えていきたいのである。新自由主義から社会民主主義へ。一緒にやっていきましょう。





関西共同行動ニュース No86