私たちはすでに戦前の法に囲まれている!
【関西共同行動】 古橋雅夫
1931年「一撃で降伏する」として始めた中国侵攻は、しかし10年たっても終わらず、国内生活は日増しに困窮し、ついに活路を南方に求めて米英と開戦するに至る。今再び中国を仮想敵国とする時、80年前の戦時下にあった戦争遂行に向けた法制度が復活するのではないか、いや実はすでにあるのではないか。戦前の法と、とりわけ安倍政権以降に成立した法との類似性を比較してみました。
戦前の戦時体制を支えた法律(年代順)
●1918年5月7日 軍需工業動員法施行
平時において、戦時に必要な物資を予想し、戦時に対応できるよう不足分について諸工業に保護奨励を与え、戦時には政府がこれらを管理、使用、収用、徴用することを定めた。
●1925年4月22日 治安維持法
国体の変革、私有財産制度の否認を目的とした結社の組織及び参加を禁止した。以後、共産主義を中心に思想を抑圧。1928年に最高刑が死刑に引き上げられ、解釈の拡大が行われた。
●1931年4月1日 重要産業統制法
この法律は、昭和恐慌下で産業の不安定を克服するため、重要産業のカルテル(企業連合)化を強めることを目的として制定され、1936年にはトラスト(企業合同)を適用対象に追加するなど内容が強化された。自由競争を国家統制によって管理する事で成長を促すとした。
●1937年3月30日 「国体の本義」発行
国体明徴運動の中で編纂され、明治憲法下における立憲主義の統治理念を公然と否定。神勅や万世一系が冒頭で強調されており、「天皇は統治權の主體である」とした。文部省は 30万部を全国教育関係者に配布し、市販版は1943年には190万部に達して聖典化した。
●1937年 国民貯蓄運動と軍事公債発行
日中戦争の資金の調達のために「軍事公債(戦時公債)」が国民に売り出され、また大蔵省は国民貯蓄奨励局を設置して、貯蓄を奨励する国民貯蓄運動が始まる。その結果、国家財政に占める軍事費の割合は、全体の94%を占め、その財源の大半が軍事国債であった。
●1937年4月5日 防空法公布
航空機の来襲(空襲)によって生じる危害を防止し、被害を軽減する事を目的として民間防衛に関する法律「防空法」が制定され、同年の防空法施行令で空襲警報の基本規定が置かれた。その結果、国民には「消防」について退去の禁止と応急消火義務が規定された。
●1937年8月14日 軍機保護法改正
1899年の法律が全部改正され、軍事機密の対象範囲が拡大されたほか、刑罰が強化された。治安維持法と並ぶ弾圧法規の主な一つであり、軍人だけでなく一般国民も対象として、言論や出版、旅行、写生、撮影などまでを制限した。
●1937年9月~ 臨時軍事費特別会計編成
この制度は戦争の勃発から終結までを一会計年度とするものであり、 この制度により一般会計とは異なり議会のチェックを実質的にはまったく受けることなく、日銀に国債を引き受けさせて、戦争の続くかぎり戦費を無尽蔵に調達できる「打ち出の小槌」となった。
●1939年3月19日 軍用資源秘密保護法
「スパイ」行為の取締を主なる目標とし、国家総動員法による人的・物的資源の徴用に関する秘密事項のうち、軍機保護法の及ばない軍用資源に関する情報が外国に漏洩することを防ぐ目的で制定された。
●1938年4月1日 国家総動員法公布
国家総力戦の遂行のため、議会の承認がなくても政府が国家の全ての人的・物的資源を政府が統制運用できる(総動員)旨を規定した。しかし、統制の内容は具体的には明示されず、全ては国民徴用令をはじめとする勅令に委ねられた。
●1939年7月8日 国民徴用令公布
国家総動員法に基づき国民を強制的に徴用し、生産に従事させることを定めた。軍需を中心とした重要産業における労働力確保を目的とした。
●1939年7月~労務動員実施計画決定
戦時下の労働力不足を補うために、日本政府は朝鮮から日本の炭坑や鉱山などに労働者を動員することを計画。動員は次第に強制的なものとなり、1944年には完全な強制になった。
●1940年4月4日 要塞地帯法改正
要塞地帯法は1899年に制定されたが、3度改正され、対米英戦準備の緊迫した状況のもとで、海軍省によって要塞区域が拡張された。これらの区域では要塞を中心に一定距離内を要塞地帯と指定され、立入り・撮影・模写・測量・築造物の変更・地形の改造・樹木の伐採などが禁止もしくは制限され、罰則をもうけて厳重に保護された。
●1940年12月6日 情報局設置
各省庁で行われていた情報・宣伝業務、言論・報道に対する指導・取締りに関する業務を一元化して強化するために設置。
●1941年3月7日 国防保安法公布
すでに軍事上の機密保護に関しては法規が存在し、軍事以外の事項の機密保護に関しても、出版法(1893公布)、新聞紙法(1909公布)、国家総動員法(1938公布)中の諸規定が存在していたが、日中戦争の長期化に伴う戦時体制強化のため、政治上の機密事項の漏洩を取り締まることを目的として制定された。
●1941年3月10日 治安維持法(改正)
治安維持法は、1925年に制定され、皇室や私有財産制度を否定する共産主義活動を取り締まるために制定されたが、全面的に改正され、政府に批判的な言論や活動全体が処罰対象となった。
また、釈放後も拘禁を可能とする予防拘禁制度を導入した。
●1942年2月21日 食糧管理法制定
日中戦争勃発以降、働き手の男性が戦争へ行くため、農作物の生産量は減り、朝鮮や台湾からの輸送の燃料は軍用が優先され、国民生活は米不足となった。そのため主要食糧の国家管理を強化し、米穀の配給通帳制度(米穀通帳)を全国で施行。
安倍政権以降に成立した法律(先表に類似)
●軍需産業支援法成立(2023.06.07)
防衛産業は国防を担う重要な存在とし、自衛隊の任務に「不可欠な装備品」をつくる企業と認定されれば、国内の生産基盤を維持するため、費用の助成や「国有化」も行う。また殺傷性のある武器輸出をも解禁。
●改正組織犯罪処罰法成立(2017.06.15)
「テロ等準備罪」と称されるこの法律により、①組織的犯罪集団の構成員が,②特定の犯罪の実行に関する合意がなされ,③右合意に基づき準備行為がなされた場合,犯罪が成立し、処罰される。
●防衛装備移転三原則制定(2014.04.01)
これまでの武器輸出禁止三原則を変えて①平和貢献・国際協力 の積極的な推進に資する場合、②我が国の国家安全保障に資する場合に限り、防衛装備の 海外移転が可能となった。
●新教育基本法成立(2006.12.15)
これまでの教育基本法の全部を改正し、新たに育成されるべき国民の姿として「道徳教育」「愛国心」が明記され、教員に対しては「養成と研修」受けることを規定した。そして「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの」とされていた教育行政が、「法律に基づいて行われるべき」ものとなり、教育への国家統制が規定された。
●防衛費を建設国債から解禁(2022.12.14)
野放図な借金を重ねたことが先の大戦を招いたとして、国債の発行は禁じられていたが、再び建設国債から軍事費に充てることにした。借金をあてにした防衛費の増額に歯止めなくなった。
●国民保護法成立(2004.06.14)
武力攻撃事態、武力攻撃予測事態、大規模テロ
などに際して、国民の生命・身体・財産を守り、国民生活等に及ぼす影響を最小にするための、国・地方公共団体等の責務、避難・救援・武力攻撃災害への対処等の措置を規定した。またその際、任に当たる米軍に、土地、家屋を提供し、自衛隊が燃料や弾丸を提供することを可能とした
●重要経済安保情報保護法成立(2024.05.10)
防衛や外交など4分野の情報保全を目的とした特定秘密保護法の経済安保版。国が保有する安全保障に支障を与える恐れがある情報を「重要経済安保情報」に指定し、これを扱う公務員や民間企業の従業員、研究者らを対象に身辺調査する制度を導入した。
●防衛力財源確保特措法成立(2023.06.16)
防衛費を関連予算含めて国内総生産(GDP)比2%程度に倍増させるため、5年間で防衛費に総額約43兆円を充てる。そのための財源を確保するための特別措置を定め、「計画的かつ安定的」に使えるようにする「防衛力強化資金」を設置。
●特定秘密保護法成立(2013.12.06)
漏えいすると国の安全保障に著しい支障を与える情報を「特定秘密」に指定し、それを取り扱う人を調査・管理し、それを外部に知らせたり、外部から知ろうとしたりする人などを処罰する法律。しかし何が「秘密」かも秘密とされる。
●緊急事態条項(案)
総理大臣が「緊急事態」を宣言すれば内閣が法律と同じ効力を持つ政令を定め、国会の承認は事後的でよいとする憲法改正案が検討されている。
●改正地方自治法成立(2024.06.19)
大規模災害や感染症の大流行などの非常事態に国が地方に対応を指示できるようにする新たな「指示権」を設けたが、これを行使する具体例を示さず、乱用の恐れが指摘されている。
●改正出入国管理法施行(再改正)(2024.06.10)
2019年に管理局を管理庁に格上げし、国内人材不足を補うために特定技能という在留資格を創設した。さらに難民認定の申請手続き中は送還しない規定を改め、3回目以降は「相当の理由のある資料」を提出しなければ強制送還できる。
●重要土地利用規制法公布(2021.06.23)
自衛隊の基地など日本の安全保障上、重要な地域での土地利用を規制する法律。 施設の周囲およそ1キロメートル内や国境近くの離島を「注視区域」に定め、日本の安保を脅かす土地利用を確認すれば、所有者に中止を勧告・命令できる。
●国家安全保障会議(NSC)設置(2013.12.04)
国家安全保障に関する重要事項および重大緊急事態への対処を審議するために内閣に置かれ、主任の大臣および議長は内閣総理大臣で構成され、緊急に対処する必要があるときは必要な措置について内閣総理大臣に建議する。
●経済安全保障推進法成立(2022.05.11)
経済活動に関して行われる国家・国民の安全を害する行為を未然に防止するため、 (1)重要物資の安定的な供給の確保、(2)基幹インフラ役務の安定的な提供の確保、(3)先端的な重要技術の開発支援、(4)軍事技術の特許出願の非公開、などの4つの制度を創設。
●盗聴法改正(再改正)(2019.06.01)
通信の秘密との関係で、これまでの通信傍受は、通信業者の立ち合いとその施設で行うことになっており、盗聴対象も組織犯罪のみに限定されていたが、2016年の改正で詐欺や窃盗などの一般犯罪も盗聴対象になり、さらに改正されて警察施設での盗聴が可能となり、通信業者の立ち合いが不要になった。
●食糧安全保障強化法成立(2024.06.14)
食料が大幅に不足する予兆があった場合、内閣総理大臣をトップとする対策本部を設置し、関係する事業者に、生産や輸入の拡大、出荷や販売の調整などを要請することができ、従わない場合は罰金を科す。カロリーの高い作物への生産転換を要請したり、指示したりすることもできる。

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