日米同盟から「NATO+IP4軍事連携」へ 一気に高まるアジア地域での戦争の現実性
【ATTAC関西グループ】 喜多幡佳秀
■NATOと日本との軍事協力拡大はバイデン・岸田政権の置き土産?
米国のトランプ次期大統領は就任式に先立って、次々と奇抜な「重点政策」を打ち出し、ヨーロッパやカナダ・日本などの「同盟国」の不安を煽っている。防衛政策をめぐっては、もっぱら同盟国に負担増を求め、特に「中国の脅威」に対抗する上での軍事協力だけでなく「経済安保」や情報、AI技術などあらゆる面での米国との協調を求めている。その一方でグリーンランド(デンマークの自治領)の買収や、カナダ・メキシコからの輸入規制、パナマ運河の「奪還」といった挑発的な政策は、同盟国や影響下の国に対しても「米国第一」主義を貫くという強い意志の表明である。
台頭する中国への対抗、アジア・太平洋重視に軸心を移した米国の軍事戦略は(子)ブッシュ政権の後半からオバマ政権、第1次トランプ政権、バイデン政権と継続され、すでにこの戦略に基づいて米国の経済・社会全体が核兵器や宇宙兵器を含む最先端情報・科学技術における優位を最優先課題として再編されてきた。この点について民主・共和両党の間に基本的な違いはないし、第2次トランプ政権がこの基本戦略から逸脱することはないだろう。米国や同盟国におけるトランプ政権への危惧は、この基本戦略を進める上での手法、つまり米国第一主義、単独行動主義の危うさについてのものにすぎない。
バイデン政権の下では、「中国の脅威」という認識に基づいて、NATOのアジア・太平洋地域への関与が急速に拡大した。特に岸田政権の下でNATOと日本との軍事協力が急速に進んだ。2022年以来、NATO首脳会合には「インド太平洋4ヶ国パートナー」(IP4)と呼ばれる日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳も出席し、個別会合も開催されている。2022年の首脳会合(マドリード)ではインド太平洋について「この地域における発展は欧州大西洋地域の安全保障に直接に影響しうるため、NATOにとって重要である」として初めて言及された。2024年7月の首脳会合(ワシントン)の宣言でも「欧州大西洋の安全保障に対するアジア太平洋地域のパートナーの継続的な貢献を歓迎する」ことが記され、合わせて開催されたバイデン・岸田の会談の中でもNATOと日米同盟の連携の一層の深化が確認された。
今から考えればNATO首脳会合におけるこの演出は、トランプの再登場による同盟関係の危機を予感していたバイデンの置き土産だったのかもしれない。
■インド洋と太平洋にヨーロッパ列強の軍艦が次々と・・・百年前にタイムスリップ?
欧州主要国は近年、インド洋・太平洋地域で軍事的なプレゼンスを強め、日本への部隊派遣や自衛隊との共同訓練を積み重ねている。昨年8月にはイタリア海軍の空母「カブール」が海上自衛隊の横須賀基地に寄港。ドイツ海軍のフリゲート艦と補給艦も東京国際クルーズターミナルに寄港、9月には台湾海峡を通過した。これに対して中国政府は「航行の自由という名目で中国の主権と安全を脅かすことに断固反対する」と抗議した。
昨年11月1日に、日本とEUの「外相戦略対話」が開催され、岩屋毅外相とボレルEU外務・安全保障政策上級代表の間で海洋安保協力の強化などを盛り込んだ合意文書「安全保障・防衛パートナーシップ」が締結された。この文書では欧州とインド洋・太平洋地域が地政学上や安保分野で相互依存していることが強調されている。具体的には局長級による「安全保障・防衛対話」を新設し毎年開催することや、自衛隊とEU海軍部隊の共同訓練、第三国を含む合同演習の実施が合意された。防衛産業に関する情報交換を促進し、機密情報の交換を可能にする情報保護協定について「可能性を追求する」こと、軍事力に偽情報拡散などを絡めた「ハイブリッド脅威」への対策や、核軍縮・不拡散の取り組みで連携することも合意された。
同12月には来日中のフランス海軍のギヨーム・パンジェ太平洋管区統合司令官(少将)が「原子力空母シャルル・ドゴールが太平洋航行を含む任務で本国を出港し、艦隊の一部が来年2~3月に日本に寄港する」と明らかにした。フランスの空母打撃群の太平洋航行は1960年代以来であり、インド洋ではインドなどと二つの合同演習を実施。太平洋では日米加豪4ヶ国との合同演習に参加する。
また、中谷元・防衛相は1月13~16日に英国を訪問し、ヒーリー国防相と会談する。イタリアを含め3ヶ国で進める次期戦闘機の共同開発推進などの具体的な連携が協議される。
日米豪印4ヶ国の首脳・外相によるQUAD(クアッド)、豪英米3カ国の軍事同盟AUKUS(オーカス)や、NATOとIP4各国間で締結され継続的に更新される個別協定、米国とスリランカ、フィリピン等との間の軍事基地提供に関わる協定を合わせて考えれば、アジア太平洋地域における軍事的緊張は強まる一方であり、偶発的戦争や局地的戦争・「代理戦争」にとどまらず、核兵器の使用を含む戦争の危険が迫っていることから目を背けることはできない。

■軍隊は人を守らない! 「抑止力」理論は現代のカルト
「アメリカをもう一度偉大に(MAGA)」を叫ぶ極右(ファシスト)政権や、時代錯誤の砲艦外交に邁進するヨーロッパの「中道政権」は、私たちの眼前で日々深刻化する悲惨な戦争とジェノサイド、気候危機や難民問題、国内の貧困と社会の分裂を冷笑的に看過し、その解決に投じるべき人や資源を破壊と殺戮のために投入することで人々の未来を奪っている。「抑止力」理論は現代のカルトであり、その支配下では人々は常に恐怖の下で際限なく軍備を拡張しつづけなければならない。
しかし「ロシアの脅威」、「中国の脅威」、「自由と民主主義の危機」であらゆる暴力と偽善がまかり通る時代は終わりつつある。トランプ政権の再登場は米国や同盟国にとっては深刻な危機・災禍であるが、グローバルサウスの諸国ではむしろ一極支配が終わり、多極間のバランスの中で一定の独立的な選択のスペースを開くものとして歓迎されている面もある。米国やヨーロッパ諸国でも脱植民地主義の立場からの難民支援やグローバルサウスとの連帯が広がっている。
「アジア太平洋地域における日本の役割は・・・」とか「日本の指導力が・・・」などという議論に付き合う必要はない。MAGAやヨーロッパ諸国の砲艦外交が時代錯誤であるのと同様に、「日本がアジア太平洋地域で指導的役割を」という議論自体が時代錯誤であり、無反省である。私たちは軍隊の「抑止力」について語るのをやめ、軍隊は人を守らないという教訓を伝えればよいだけである。石破政権の下での改憲をめぐる動きの中で私たちは、湾岸戦争以来繰り返されてきた「日本が国際的責任を果たす上で自衛隊を憲法に明記することが大事だ」という議論の流れを逆転させて、この原点に立ち返るべきだろう。

|