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改憲の舞台は本命をめぐる攻防へ

【弁護士】 大江京子(講演録要旨)



2024年11月30日の「石破政権による改憲・軍拡STOP」集会で、憲法をめぐる新局面について大江京子弁護士(東京東部法律事務所)の講演がありました。その要旨を報告します。

(関西共同行動・齋藤郁夫)

■野党共闘バッシング

 安倍首相が、期限を切って改憲ののろしをあげたのは、2017年のことです。しかし立憲野党はがんばって、2021年6月まで改憲を阻止しましたが、その年の10月の衆議院総選挙で、野党共闘は思うほどの議席を取れず、改憲派はその機会を捉えて一斉に野党共闘バッシングを始め、国民民主党や維新の会は改憲を打ち出し、立憲民主党・共産党を包囲。改憲の大合唱が始まりました。
(大江さんは毎回憲法調査会を傍聴していて、そのようすは凄まじかったといいます。)

■任期延長改憲からの転換

 戦争や自然災害時に対処するため、改憲5派(ジゴクニイコウ=自・国・維・公と有志の会)は、緊急時の国会議員任期延長改憲に狙いをしぼり、攻勢にでました。憲法審査会では、与党筆頭理事が条文の起草作業に入る提案をするところまで行きました。

ところが自民党派閥の裏金問題で予期せぬ事態となり、立憲民主党の頑張りもあって、22年から24年の通常国会までの2年半、改憲発議は阻止されました。国会で改憲勢力が3分の2を超えている崖っぷちであることを考えると、これは特筆すべきことです。

 実は、あれほど「現憲法の規定では緊急時の対応期間が70日に限定される」として任期延長改憲を主張していた自民党は24年9月、突如として「限定されない」と方針転換します。もととも参議院憲法審査会での自民党は、任期延長改憲に乗り気ではなかったものの、「議論は尽くされた」としていたこれまでの憲法審査会の審議は何だったのでしょうか。国民をバカにしています。

結局、自民党は改憲の本命、自衛隊明記と緊急事態条項をかかげて改憲に向かうことになりました。

■憲法に自衛隊明記の意味

自民党の2018年の自衛隊明記の改憲案では、9条1項および2項を維持し、さらに9条の『2』を創設して、

「前項の規定は、我が国の平和と独立を守り、国および国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を再考の指揮監督者とする自衛隊を保持する。自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認そのたの統制に服する。」
との条項を付加しています。

この条文にある【妨げず】は、9条2項の無効化を意味します。【自衛の措置】には集団的自衛権が含まれます。【国民の安全を保つ】により海外派兵が可能となり、【法律の定めるところにより】は、憲法で自衛隊の任務や権限を縛らないことを意味します。

自衛隊の明記にはさらにこんな意味があります。自衛隊が「戦力」として憲法で保障されることになり、安保法制も集団的自衛権も核共有も軍事法廷・徴兵制・徴用も合憲とされるでしょう。基地建設の土地収用も可能となり、取材の自由も知る権利も制限され、「軍隊」が何をしようとしているかチェックできなくなり、福祉国家(憲法25条)の理念は軍事力増強の必要性の前に無力となるでしよう。

■緊急事態条項とは

また、憲法に緊急事態条項(戦争・内乱・恐慌・自然大災害などの時)が創設※されれば、立憲的な憲法秩序は一時停止し、非常措置をとる権限(国会緊急権)は行政機関(内閣・内閣総理大臣)に委譲されることになります。

※参考―自民党は、2012年に発表した憲法改正草案において「緊急事態条項」を創設し、「総理大臣が「緊急事態」を宣言すれば内閣が法律と同じ効力を持つ政令を定め、国会の承認は事後的でよい」とした。

■危険な軍事オタク・石破首相

石破首相は、岸田政権の安全保障政策を賞賛し、大軍拡を引き継ぐ意思を表明し、憲法改正については「総理在任中に発議実現」を表明し、裏金・統一教会問題には触れず、就任前には自らアピールしていた夫婦別姓制度の導入に触れず、原発再稼働に前向きで、アジア版NATOをめざし、非核3原則見直し=日米核共有をめざすとしました。

かつては日米地位協定を改定し米国の負担軽減のため、米軍基地の日米共同使用を提唱し、軍事法廷創設にも言及して、戦前色の濃い自民党憲法改正草案(2012年)作成の中心人物でもありました。

■戦争はつくられる

『戦争は人の心の中で生まれる。人の心の中に平和のとりでを築かなければいけない』これはユネスコ憲章前文の一節です。

1990年、米国の湾岸戦争参戦を決定づけたのは、連邦議会でのクエート人少女ナイラの証言(「私が働いていた病院にイラク兵が突然乱入し、生まれたばかりの赤ちゃんを床に放り出し・・・」)でした。しかしこの証言は、米国のPR会社の作り話でした。



■新たな危機にどう立ち向かうか

武力による平和ではなく、
・「攻められない国になる」
・「隣国との信頼関係をつくる」
・「非暴力・非軍事の貢献をして信頼を得ることにより、この国の平和と安全を守っていく」ことが、我々にとっての安全保障の道です。

軍事力増強、軍事同盟強化では永遠に平和は訪れません。憲法の平和主義に基づく平和外交を行う政権を!




関西共同行動ニュース No97