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●講演要旨 トランプ政権の誕生/日本のとるべき政策は?
【同志社大学大学院教授】三牧聖子 対談 【新外交イニシャティブ 代表】猿田佐世

3月22日、「とめよう!戦争への道・めざそう!アジアの平和2025春 関西のつどい」で三牧聖子さん(同志社大学大学大学院教授)と猿田佐世さん(新外交イニシャティブ代表・立教大学講師)の講演・対談が行われました。以下はその報告です。

三牧聖子さん講演


三牧聖子さん(撮影:細川義人)



戦後国際秩序は壊れかけても最終的には法の支配に戻ったが、アメリカのトランプ政権はそれを否定した。就任演説で彼は「第2次世界大戦後、日本・西欧につけ込まれ利用されてきたが、それを終わらせる」といい、米国第1主義を宣言した。

(1)トランプ政権の閣僚
トランプ政権の閣僚はすべてトランプの僕である。国務長官マルコ・ルビオは、「冷戦後、全人類は1つの人類家族となる運命にあると考えていたが、それは幻想だった」。イーロン・マスクは、ドイツAfD(独のための選択肢)の集会で「過去は忘れろ、未来だけ見ればいい」。

副大統領バンスは、「ヨーロッパで懸念されるのは、ロシアや中国よりも、内なる脅威だ」。国防長官ヘグセスは、「ロシアが クリミアを併合する以前の領土に戻すのは非現実的だ」。そうしてトランプ政権はまずUSAID(米国国際開発庁)を解体し、他国のDEI(多様性・公平性・包括性)計画の支援を中止した。

今西欧で浮上しているのがヤルタ2.0だ。ヤルタ会談が、第2次世界大戦の終末期に戦後体制を準備したように、今の世界は米国・中国・ロシアが今後の世界を勝手に決めることがありうるのではないだろうか。

(2)米国社会の変化

米民主党にはオルタナティブな米国の姿、平和の構想がない。民主党の支持率はここ10年で最低。移民問題でも、不法移民から米国を守るというトランプの主張に負けている。米国は移民によって大国になったのに、合法移民もこれ以上入れるべきではないという声が台頭し、民主党支持者の42%が不法移民の強制送還に賛成。トランプ個人への批判は広がっているが、トランプの政策には支持がある。

トランプは就任演説で、DEI政策は白人に対する差別だとしてこれを終わらせると明言した。これはマイノリティの存在を否定するものだ。そしてグーグル、メタ、アマゾンはDEIを廃止した。

この政策変更は、科学研究にも大きな影響を与え、バリアー、ダイバーシティ、差別、平等、公平、女性、ジェンダーという言葉が含まれているだけで、研究の助成金が下りない。気候変動の研究も大きく後退した。教育庁の廃止も噂されている。

以前の米国は間違った方向に進んでも、市民社会や大学人の言論の力によって元に回復されてきたが、その力が削がれつつある。トランプの閣僚は親イスラエルの人物がそろっている。ガザ停戦はトランプへのご祝儀だった。

トランプ政権は学生のガザ連帯キャンプの行われている大学には補助金を停止すると圧力をかけ、大学当局が学生を自主的に規制し始めた。このような圧力のかけ方は昨年もあり、その時は超党派で行われた。米民主党にも期待できない。

米国は権威主義になりつつあるが、トランプさえ打倒すれば元に戻るという単純な話ではない。米国の政治は、庶民の政治どころか、就任式に集まった男性中心主義で無責任な大富豪たちの政治になろうとしている。日本は米国と価値を共有するのか。

猿田佐世さんの問題提起


猿田佐世さん(撮影:細川義人)




日本は日米同盟が基軸だ。日本の保守層は、米国が日本を守らない?ならば独自の防衛を強化しなければと思っている。リベラル派は、米軍が本当に引きあげることなど考えたこともなかった、しかしそうなれば独自で防衛力を強化していかねばと言っている。日本の向かう方向は本当に防衛強化でいいのか。

米国は日本を助けないかもしれないが、中国がいきなり攻撃してくる可能性は少なく、日本が戦場になる可能性も少ない。日本のGDPは中国の6分の1。そんな中国を相手に戦っても勝てない。防衛費を2%にするのも大変なのに3%などとても無理だ。軍事力で平和になるなら、もうとっくに平和になっている。要するに相手に『安心の供与』をする、それが戦争をしない一番の方法だ。相手を怖く思うのは信頼関係がないからで、それを作ること肝要だ。

お二人の対談

三牧:トランプが習近平に接近し、日本が梯子をはずされるかもしれない。プーチン・トランプ・習近平が権威主義的枠組みを作るなら、西欧はついては行かない道をとっている。米中が接近し、トランプは西半球の帝国を作りたい。パナマ、グリーンランドは米国のもの。中ロの勢力圏を認め、台湾は中国の自由に、ウクライナはロシアの好きにしていい。このとき、日本はどうするのか。

猿田:米民主党議員が訪日し、立憲民主党の野田さんに会った。日米同盟は形の上では今後も継続するが、今の米国との同盟関係を維持するのかと野田さんに迫ったとき、野田さんは国際協調は守らなければと応えた。今世界は多極化しているが、他国への侵略は絶対反対の国が圧倒的に多い。その国とつながりながら米国の反対派ともつながり、国際世論を作っていくことが大切だ。米国民も自らだけではトランプと対抗できない。国際的な陣形が必要だから、米国からも手を伸ばしていきたいという話を聞くようになった。

三牧:トランプは、裁判所にも従わない。民主党の方でもトランプの政策を支持する層が出てきている。今は2大政党制を考え直す局面かなと思う。南アなどグローバルサウスが力をつけている。国際刑事裁判所の所長をしている赤根さんが、ネタニヤフとガラントに逮捕状を出したことで、米国は同裁判所を制裁すると言い、所長の赤根さんは制裁をやめるように世界に訴えているが、日本の動きが鈍い。石破・トランプ対談で、石破さんは日本でも好評だったが、1兆円まで米国投資を伸ばすと表明し、他のことには触れず只ひたすら日米会談の成功だけに注力した。でも結局関税は上げられた。

 今は米国との関係はむげにはできないが、米国で起きていること、米民主党の国際連帯の訴えを考え、日本が自立した選択をすることが重要だ。間違った追随をしないこと。日本は西欧に倣ってウクライナを支援してきたが、グローバルサウスはそこからも1歩引いて中立姿勢をとった。これからの外交姿勢について猿田さんの話を!

猿田:ガザ・ウクライナに触れなかった石破さんを責められない。でも、例えば国際刑事裁判所の件でグローバルサウスと連携するとか、他のことではものを言っていこう。パレスチナ難民支援機構への支援、休戦へのリードとか。ベトナムはよくやっている。どこの国とも平和で行く。自主自立、どことも同盟は結ばない。外国の軍事基地は置かない。全方位外交だ。グローバルサウスの智恵から学ぶことが多い。

三牧:全方位外交しかないのかな、ベトナムのようにしなやかに。米国の若い世代はむしろ世界の認識と合致してきている。米国の若い世代には希望があると付け加えたい。



(講演要約/齋藤郁夫)





関西共同行動ニュース No98