●参政党の「新日本憲法(構想案)」をどう見るか 【弁護士】 谷 次郎
去る2025年7月の参議院議員選挙で、参政党が比例で742万票あまりと、立憲民主党を超えるような得票数を得て大躍進したということは多くの人に衝撃をもって受けとめられました。「日本人ファースト」なる排外主義的なスローガンを標榜する政党が広範に支持を集めているという社会状況に危機感を覚えざるを得ません。ヨーロッパにおいても、極右勢力の台頭、例えば、フランスにおける国民連合(RN。旧名称は国民戦線(FN))や、ドイツにおけるドイツのための選択肢(AfD)が選挙で広範に支持を集めているという状況があり、経済状況の悪化によって排外主義的な考えを打ち出している政党が支持を集めている、という点には共通性があるように思えます。

また、参政党は、去る参院選で政策の一つとして、「憲法づくりで政治に哲学を」というスローガンを打ち出し、「護憲・改憲という枠を超え、日本人自身が自らの手で新たな憲法を創る「創憲」を提案。ゼロから憲法を創ることで国民の意識改革を促します。」としました。そして、参政党は「新日本憲法(構想案)」というものを発表しました。この「構想案」は、参政党が2年がかりで取り組んできた「創憲」プロジェクトの成果として、完成したとのことです。
この「構想案」は、7章から構成されますが、全体で33条しか条文がない、という点がまずもって目に付きます。現行の日本国憲法は103条からなりますが、条文数として3分の1以下になっているのです。そして、その帰結として、日本国憲法が規定している人権規定がほぼ存在しません。わずかに、「国民の生活」という章の中に、「主体的に生きる自由」「健康で文化的な尊厳ある生活を営む権理(これは、誤字ではなく、わざわざ権利を「権理」と呼び変えています)」「自ら学び自ら考える力を基本とする教育を受ける権理」「必要な医療を選択する自由」「政治に参加する権理」が規定されるに止まっています。表現の自由も、思想良心の自由も、信教の自由も、集会結社の自由も、学問の自由も、婚姻の自由も、勤労者の権利も、適正手続の規定も、拷問の禁止も、軒並み抜け落ちています。
その上で、天皇については、「日本は、天皇のしらす君民一体の国家である」として、君主制を明らかにしています。また、国民の要件として、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準とするという規定も目に付きます。

統治機構についての条文もきわめて少ないものです。国会、内閣、裁判所のそれぞれについて一箇条ずつを規定するのみです。一方、現行の日本国憲法には存在しない政党の規定があり、政党が憲法上の存在となっています。
また、「国まもり」という章では、「自衛軍」について定めるとともに、情報防諜、経済安全保障、資源に加え、「外国人と外国資本」という条文により、外国人の入国在留要件について国が自由に決定する、外国人参政権は認めず、帰化した者についても、公務就任権を制限する、といったような規定が見出されます。この「構想案」は、参政党の国家観・歴史観を忠実に反映しているものということになります。


しかし、この「構想案」は、そもそも憲法の体をなしているとはおよそ言えません。憲法の大原則に「立憲主義」というものがあります。立憲主義とは、憲法は国家権力を制限するものであり、そのことによって個人の自由と尊厳を守るというものです。この原則は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であり、憲法が保障する人権は、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものです。
ひるがえって、参政党の「新日本憲法(構想案)」は、立憲主義的な観点が皆無であり、また、立憲主義的な憲法が、人類の人権獲得の歴史の中に位置づけられているという理解もなされていません(だからこそ護憲でも改憲でもなく「創憲」というような言葉が出てくるのです)。この「構想案」は、立憲主義を放擲して封建主義を復古させるものに他ならず、このようなものが「憲法」として成立した世界はとんでもないディストピアであると言わざるを得ません。
ただ、参政党は、組織としては非常にしっかりしている上に、ウェブマーケティングについてもすごく意識的に行っているのは間違いがなく、実際にそのことが少なからぬ支持を集め、参院選後も、各地の地方選挙で着々と議席を獲得しています。そのことを踏まえると、侮ってはいけない動きだというべきでしょう。冷静に、「構想案」の持つ問題点を理解し、広めていく活動を行っていくべきでしょう。
(参考)参政党が創る「新日本憲法」構想案から
(国民)
第五条② 国民は、子孫のために日本をまもる義務( 国まもりの参加協力の努力義務)を負う。
(自衛軍)
第二十条 国は、自衛のための軍隊(軍隊とは、交戦権を有し武力行使を任務とする国家の軍事組織であり「自衛軍」と称す)を保持する。

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